話は、少しさかのぼる。
2020年春―― 少女のベン(VEN)は、父の書斎で愛用のヴァイオリンを奏でていた。3歳から始めたヴァイオリンの音色はいつも周囲の心をなごまし、リラックスさせてくれる。気がつくと30分程経っていた。
ベンは満足した様子で演奏を終えた後、書斎になにげなく置かれてあった薄茶色の球体の石に心が惹かれ、長い時間、じーと眺めていた。そしてベンは「何か、自分の運命と関わりがある!」と、そんな気がしていた。
ちょっと重いけどそれを手に取って、テーブルに置かれてあった皿の上に載せた。なんの気なしにその球体を、手のひらで回してみると、くるくるくる… と回り出した。
ところが不思議なことに、その回転が止まらない。1時間経っても回り続けている… ちょっと気味の悪い感じがしたベンは、その球体を両手で掴み、元の場所へ戻すことにした。
改めて見ると、球が置いてあった側に何か書かれていることに気づいた。小さな文字で「ここに地終わり、海始まる」と、詩のようなものが記されていた。
後日、この球体の石について、ベンは父に尋ねてみることにした。
「ねえ、お父さん… この石はどこから来たの?」
父は、しばらく言葉が出なかった。そして… 何十年も前に、家の畑に落ちてきた隕石であることを話してくれた。思い出したくもない、おそろしい出来事のようだった。その様子からベンは、その先の話を聞くことを止めた。
そして「ここに地終わり、海始まる」これは何だろうと思い調べてみると、ユーラシア大陸の最西端、ポルトガルのロカ岬に建てられている、カモンエスの詩であることが分かった。
「いつしか、そのロカ岬に立ってみたい!」ベンは、そんな気持ちになっていた。何か未知の冒険が、そこから始まるような予感が頭をよぎった。
つづく