エビーとタイはペガサス号にて、チグリス川の中流域へ移動した。時刻は夜の明ける前であった。このあたりは水の恵み豊かな肥沃の土地で、アッシリアの文明が栄えていく地域でもあった。

夜が明けてあたりを見渡すと、そこには野生の小麦が見つけられた。二人は早速、寝泊りのできる掘っ建て小屋を作ることから始めた。携帯していた石包丁を使って、周囲で見つけられた木々や大小の石を集めては、家を作り上げていった。そして次には、近くに群生している小麦を刈り取っていくことを始めた。

「これなら、パン屋さんができそうだね!」とタイは。するとエビーは、

「石窯を作らないといけないね…」と言った。その後、石窯もなんとか形になり、小麦から小麦粉を作る石臼も作られていった。

「パン生地の一次発酵はうまいこといくかなあ…」とエビーがつぶやくと、

「まあ心配ないよ。自然のカビのように、そのうちパン生地にくっついてくるよ。少し気長に待っていればね!」と、タイは得意顔。

この地でまずは麦畑を作って、長期的な食糧を確保していく――。そのために、麦の種蒔きも行われていった。パンの焼きあがりの方も、少しふっくらしたパンになっていった。それはパンを発酵させる酵母菌が、少しずつ育って増えていったためであった。

「やるね、タイ!」と、エビーが褒めた。

パン作りも軌道に乗り、その噂を聞いてやって来る人も出てきた。はじめのうちはただでそのパンを食べさせてあげたがその後、これと交換してはもらえないかと言い出してきた。チグリス川の河口あたりからやって来た者は、小袋に塩の入っていたものを差し出して、

「そのパンを、これでわけてはもらえないか?」ということにもなった。

ペルシャ湾に面した河口付近では、塩田によって海水から塩を手に入れていた。その会話を耳にしたタイは喜び、その人に少し多めにパンを渡してあげたのでした。

とにかく小麦を収穫してパンを焼き続けることによって、近くから又、遠くからそれを求めていろんな人がやって来るようになった。お金というものがなかった時代、物々交換によって、パンという食べ物が多くの人たちに広がっていった。

つづく

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